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福井地方裁判所 平成8年(わ)60号 判決

裁判所書記官

和田忠史

本籍

福井県鯖江市東鯖江町第一六号一一番地の一

住居

同市日の出町一一番一〇号

無職

窪田義男

昭和九年二月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官葛谷茂出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月及び罰金三〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納しないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自己が所有する宅地を七五七六万九〇〇〇円で売却したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、西本寛一と共謀の上、実際の平成六年分の総合課税の総所得金額が二七〇万五七五七円、分離課税の長期譲渡所得金額が七〇九八万〇五五〇円であったにもかかわらず、自己には美濃商事こと小川正一に対し三五〇〇万円の保証債務があり、かつ、自己において同債務を履行したが、その求償が不能になったかのごとく仮装する方法により所得を秘匿した上、同七年二月一五日、福井県武生市中央一丁目六番一二号所在の武生税務署において、右西本が、同税務署長に対し、被告人の同六年分の総合課税の総所得金額が二七〇万八七〇一円、分離課税の長期譲渡所得金額が三五九八万〇五五〇円で、これに対する所得税額が八九三万六三〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同六年分の正規の所得税額一九四〇万九九〇〇円と右申告税額との差額一〇四七万三六〇〇円を免れた(税額の算定は別紙記載のとおり)ものである。

(証拠)

括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。

全部の事実につき

一  被告人の公判供述、検察官調書謄本(乙4)

一  渡辺忠造(甲31)、大久保正治(甲32)、西本寛一(三通、甲33ないし35)の検察官調書謄本

一  長谷川光造(甲60)、江守清美(甲61)の大蔵事務官に対する供述調書謄本

一  証明書謄本五通(甲23ないし27)

一  確認書謄本(甲28)

一  査察官調査書謄本二通(甲29、30)

(法令の適用)

一  罰条 所得税法二三八条、平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、六五条一項

一  刑種の選択 情状により懲役と罰金を選択(併科)

一  労役場留置 同法一八条

一  懲役刑の執行猶予 同法二五条一項

一  訴訟費用の負担 刑訴法一八一条一項本文

(量刑の事情)

本件は、被告人が、土地を売却したことによる所得に対する課税を免れるために、脱税請負人の西本らに五〇〇万円もの報酬を支払い脱税を依頼し、ほ脱税額が一〇四七万円余円、ほ脱税率も五三パーセントを上回る脱税をした事案である。

犯行は、私利私欲のみに基づくもので動機に酌量の余地がないことはもちろん、被告人は西本らと謀議を重ね、虚偽の金銭借用書や債権放棄通知書などの架空の書類まで造るという狡猾な手段を弄し自己の所得を秘匿したものである。

脱税額の高額さ、態様の巧妙、計画性からみて、かなり悪質な事案というべきである。善良な納税者の納税意欲、申告納税制度の健全な運用に悪影響を及ぼすものであって、被告人の刑事責任は軽視することができない。

しかしながら、被告人は、これまで実直に生活してきた者であり、本件発覚後、修正申告をし、ほ脱にかかる本税、付加税(延滞税、重加算税)をすべて納付し、本件につき真摯に反省していることなどの情状を考慮し、被告人を懲役六月(三年間執行猶予)及び罰金三〇〇万円に処すこととする。

(裁判官 松村恒)

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